古本屋さんに行くと、思わぬ本にめぐりあうときがあります。今回ご紹介するのは『赤とんぼ』という子ども向けの冊子です。大佛次郎、川端康成、柳田國男、サトウ・ハチローなどなど豪華な名前が目次に並んでおります。
今回、ぼくではなく、この冊子に興味を持ってくれた若者がぼくの校舎におりましたので、自由にいろいろ調べてもらいました。彼は、もともと書誌学に興味があり、大学で学んでいたのでした。以下の内容です。
実業之日本社「赤とんぼ」 第2巻6月号(昭和22年6月1日発行)
実物は初版本と思われる。
文字のずれ等の状況から、活版印刷によって複製されたものと推定。
「赤とんぼ」は少年少女雑誌で1946年4月に創刊。
赤とんぼ会(大佛次郎、川端康成、岸田國士、豊島与志雄、野上弥生子の編集者名があるが、おもに藤田圭雄が担当していた。
赤い鳥運動の文芸復興を願ったもので、「児童文学の復興と、綴り方(つづりかた)教育の再建」を目指した。
内容は、童謡・童話・詩・方言研究・綴り方募集(川端康成選)・物語・伝記が掲載されている。
特に、現在の小学生を対象としておこなわれている綴り方募集は選出した綴りと、川端康成による講評が掲載されている点はこの雑誌の目玉だと考えられる。
選出されている綴りは最優秀作品というわけではなく、川端の目についた作品と思われる。
講評自体は丁寧で子供向けの内容となっているが、かなり厳しい目で講評されており、文章中にも「今月はよい作品がありませんでした」などという記述もされている。
雑誌自体、児童文学の復興と綴り方教育の再建、というコンセプトで刊行されているが、綴り方教育自体は川端康成という、ノーベル文学賞を受賞した文学界の第一人者に講評をしてもらえるという絶好の機会を与えられている点からも、指導書としての内容の価値を高めていると考えられる。
童謡や童話、詩、物語、伝記は簡単な内容であり、身近な内容から記述することで低学年の子にも読みやすくなっている。
方言研究も、研究自体は日本語研究者の第一人者である柳田國男筆のため、難しい内容だが、日本語に対しての意識を与えることで、日本語教育・研究の入門として子どもたちが興味をそそられる単語の選択などがなされていると考える。
おおお、すごいですね! とてもくわしく調べてくれました。ありがとう! 実際に綴り方教室のところを読みますと、けっこう、といいますか、かなり辛口なのですよね。みんなとても上手だと思うのですが、川端先生は妥協せず、ぼくならば、まあ、いいか、なんて思うところも、きびしく吟味しております。読んでショックを受けなかっただろうかと心配になるほどです。きっと、みんなに、もっともっと上手になってほしいという思いなのだと思います。
全体を通して読みますと、戦争が終わって、少しずつ日常が戻ってきている時代を感じられます。子ども向けにはむずかしいと思われる内容も多数含まれておりまして、おもしろく読みました。また掘り出し物がございましたらご紹介したいと思います!