以前にテレビで見た元灘中学校の国語の先生、橋本武先生とおっしゃる方ですが(なんといま九十九歳だそうです)、まだまだお元気だそうで、新聞にインタビュー記事が載っておりました。ぼくが初めて知ったのは何年か前のテレビ番組だったのですが、中学校の3年間の国語の授業を、中勘助の『銀の匙』一冊だけで行い、徹底的な読み込みと、横道に逸れまくる授業で、ついには東大合格数日本一の中学にしたという先生です。
テレビで見たのはほんのさわりだと思うのですが、それだけでも本当におもしろそうな授業でした。『銀の匙』に凧揚げの場面があると、みんなで凧を作って、どこかへ上げに行ったり、食べ物の場面では本当に食べてみたり……。時には作者に質問するために手紙を書き、そのお返事をもとに授業をしたり、なんてこともあったそうです。生徒たちはきっと毎日なにをやるのか、わくわくどきどきしたでしょうね。うらやましいです。
そして……。そういう授業を許したまわりの環境もすごいなと思いました。そういう校風だからということにつきるのかもしれませんが、生徒や保護者の中には、こういう授業で大丈夫なのだろうかと心配する人がかなりいたと思うのです。特に結果が出るまでは。けれども、信念をもって授業を続け、またそれを支持する人たちが先生のまわりにたくさんいらっしゃったのでしょう。そのことにも感動いたします。
橋本先生は「いい国語講師とは」という質問にこのようなことをおっしゃっておられます。
「生徒と友だちづきあいみたいにしながら、一緒に遊んで、それが授業になるのが、プロですわな。そして最終的には、生き方と言うんでしょうかねえ、生きる能力を高めていく。そのために国語教師は存在するんでしょう。」
また、いまの子どもたちを語る際に、塾についても少しおっしゃられております。
「いまの子は、帰っても塾やお稽古ごとで、自由になる時間が少ない。塾で自由に学べない子が、学校で自由に学べる、自分から行動できるようにし向けていけば、学ぶことが楽しくなるんですよ」
自由に学べる塾がもしあったら……?
自分勝手で申し訳ないですが、ぼくのすすむ道、そして、これまで信じて歩いてきたつもりの道に、確かな光をいただいたような気がしました。
ぼくが『銀の匙』を読んだのはいつだったでしょう。もうずいぶん昔です。いまも覚えているのは、主人公の男の子の乳母が、主人公といっしょになって戦国武将になって遊ぶ場面、そして、主人公が大きくなってからその老いた乳母と再会し、青年となった主人公のお世話をするのは自分だといって乳母がいろいろとお世話をする場面です。いま書きながらも胸がいっぱいになるような美しい場面です。物語のすばらしさと、橋本先生の授業の楽しさ、なんと贅沢な時間でしょう。NEWSの授業が、ほんの少しでも近づけますよう、がんばっていきたいと思います。
いまもう一つ思い出しました。
「川の上流と下流から、足袋と足袋が流れてきました。たびたびご苦労様です」
「川の上流と下流から、やりとやりが流れてきました。やりやりご苦労様です」
これ『銀の匙』の中で物語を作ろうという授業でだれかがいっていたような気がするのですが違っていましたでしょうか? もし全然ちがう本の話だったらものすごく恥ずかしいですが……。どなたかご存知でしたら教えてください!
NEWS板橋校、NEWS青葉台校、NEWSセンター北校室長
三木 裕