ふだん国語や作文を教えておりまして、また、このコラムの欄に、詩を紹介したり、古典などのお話もたまにしたりしますので、ぼくのことをものすごい読書家と勘違いされる方がいて、赤面することがあります。もちろん、本は好きなのですが、それほどたくさん読むというわけではないですし、その読んでいる本も必ずしも文学とは……。というよりも、文学以外の本の方が大好きです。
たとえば、ついこのあいだ読み終わった本はロス・トーマスという人の『冷戦交換ゲーム』という本です。題名からもおわかりかと思いますが、まだベルリンの壁があったころのスパイのお話です。文学的な香りはしないかもしれませんが、おもしろく読み終えました。敵か味方かがなかなかわからず、最後まではらはらどきどきの連続でした。
ぼくが、この本で一番おもしろく思ったのは、主人公の男性が、なぜ共同経営者であるスパイの男を助けるのか、という点でした。二人はいっしょに10年間酒場の経営をし、共同経営者がスパイということは(強引に)知らされていましたが、主人公はスパイの仕事はしていません。けれども、謎の男に襲われ行方不明になったスパイのために、命がけで捜索をするのです。その理由はどこにも書かれていません。考えれられるのはただ一つ、二人が友人だから、という理由だけです。ですが、友情という言葉も、おそらく一度も出てきませんでしたし、友人である、とも書かれていなかったと思います。
読み始めたときは、なぜ、主人公は、このスパイを助けるのだろう、昔何かお世話になったことでもあるのかな、と、いわゆる定石通りのことを考えていたのですが、そういった場面はとうとう出てこず、途中からまったく気にならなくなりました。
『友情』とか『友達』という言葉を使わずに、『友情』や『友達』について書くというのは、非常に難しいことだと思います。たぶん、この本のように一冊全部使わないとなかなか納得いくようには書けないかと思います。でも、まさにそこがおもしろかったのですね。この本のラストに、ぼくはしびれました。
作文の授業でも、似たような意地悪をするときがあります。たとえば、作文の題名を考えてもらうときです。運動会の作文で、主にリレーについてを書いたとき、題名に「運動会でうれしかったこと」とか「リレーで勝った」といった題名をつける子がいます。そういうときに、「運動会」と「リレー」という言葉をつかわずに題名を考えてみよう、といったりします。ものすごく困る子もいますが、悩んで悩んで、とてもいい題名を考えてくれます。題名以外でも、けっこう自分で工夫できるやり方なので、みんなにぜひ覚えてほしいやり方でもあります。
というわけで、文学とはいえないかもしれない本にも、学ぶべきことはたくさんあるのです! むりやりですか?
でも、ぼくは本気で思っています。NEWSの子どもたちが、少しでも本好きになってくれるとうれしいです。今年の読書感想文の本は、けっこう本気で難しいです。じっくり読み込んで、真剣に考えてほしい内容となっています。大変だと思いますが、みんなの作品がとても楽しみです。さて、ぼくは今日はなにを読んで寝ましょうか? またおもしろい本でありますように。
NEWS板橋校、NEWS青葉台校、NEWSセンター北校室長
三木 裕