2021年となりました。昨年は大変な一年でありました。今年はどうなるのでしょうか。いろいろと不安はありますが、よい一年となることを願います。
毎年、新年1回目の先生のコラムは、干支の動物にかかわる本をご紹介しております。今年は丑年ということで、新美南吉の『和太郎さんと牛』というお話をご紹介したいと思います。
ただ、ものすごくいいお話とか、感動的なお話ではないのです。主人公の和太郎さんは大酒飲みです。いつも仕事帰りに飲んで、酔っ払っています。ですが、そのつど和太郎さんがつれているよぼよぼの牛が、酔っ払った和太郎さんを家まで連れて帰ってくれます。よぼよぼの牛に感謝した和太郎さんは、ある日、その牛にお酒を飲ませてあげました。今日はかわりに自分が、牛を家まで連れて帰ってやろうと思ったのです。しかし、大酒飲みの和太郎さん、我慢できずに自分も酔っ払ってしまって、そのまま和太郎さんと牛は行方不明になってしまいました。翌日、和太郎さんと牛が帰ってきたときは、なぜか和太郎さんが欲しくて欲しくてならなかった赤ちゃんを連れていたのでした。赤ちゃんがいた理由はぜんぜんわかりませんが、和太郎さんはその子をしっかりと育てたのでした。
だいたいこういうお話です。教訓などは特にないと思いますし、いまでは使えない言葉なども使われておりますが、なんとも、とぼけたお話でユーモアにあふれ、ぼくはけっこう好きなのです。次郎左エ門さんという人が出てきますが、こんな紹介をされています。
『次郎左エ門さんは若いころ、東京にいて、新聞の配達夫をしたり、外国人の宣教師の家で下男をしたりして、さまざま苦労したすえ、りくつがすきで仕事がきらいになって村にもどったという人でありました。』
思わずニヤリとしてしまいます。こんな人いまでもたくさんいそうではないですか。でも、この物語でいちばんいいセリフは、赤ちゃんが来たときの、和太郎さんの言葉です。
「世の中は、りくつどおりにゃいかねえよ。いろいろふしぎなことがあるもんさ」
たしかにそうですね。世の中には、いいことも、わるいことも、ふしぎなこともたくさんあります。去年は悪いことの多い年でした。きっと、今年はいいこととふしぎないいことが多い年になると思います。今年も一年間どうぞよろしくお願いいたします!