たまたま図書館で借りた俳優高倉健さんへのインタビューの本がおもしろかったのでご紹介させてください。『高倉健ラストインタビューズ』という本です。数々の映画の主役を務めた名優ですが、映画の話だけではなく、友人や、趣味のことなどについても語っているものでした。
その中で、うーむと思った言葉を二つご案内します。一つ目は、映画撮影のエピソードを語ったときのものです。中国での長い撮影があったとき、通訳の人が付きました。その通訳の方は、高倉健さんの映画のセリフで日本語を勉強したそうで、たんに日本語、中国語がわかるだけではなく、映画監督と俳優の思いや意図といったものも、お互いに伝わるように通訳してくれたそうで、撮影がとてもうまくいったと語っていました。そして、そのあと高倉健さんはこう付け加えました。
『本当は日本人同士だって、通訳が要りますよ』
監督と俳優のこととして語っていましたが……。ちょっと、どきっとしました。日本語で話しているからといって、必ずしも、すべてわかりあえるものではないですよね。もし腕のいい名人の通訳がいたら、世の中もっとよくなるのでは? なんて、読んでいて思ってしまいました。仕事仲間、親と子、先生と生徒、ほかにも、通訳がいたらいい場面があるかもしれません。ただ、いつどんなときもずっと通訳が要るのもそれはそれで不便ですから、だれもがみんな自分自身で通訳の力を身につけないといけないのかもしれないですね。
そして、もうひとつの言葉は、高倉健さんがよく行くお寿司屋さんの大将の言葉です。健さん、生魚はぜんぜん食べないのに、この大将に会いたくて、このお寿司屋さんに通ったそうです。困った大将は、ステーキのにぎりも出したとか。そのお寿司屋さんが、外国人の記者に、こんな質問をされました。「あなたの握った寿司と回転寿司はどこが違うんですか」 そのとき、大将はいいました。
『私の寿司はあなたのために握る寿司なんです』
それを雑誌で読んだ高倉健さんがとてもほめたのだそうです。ちなみに、高倉健さんは、ほめ上手で有名だったらしく、その人に直接言わないで、まわりまわってその人に届くようにほめるそうで、そのほめ言葉を聞いた人は、みんな大感激したそうです。ただ、このときの大将は、直接、ほめられたそうです。「そのひとことはすばらしいぞ」と。
目の前のあなたのためににぎる寿司、ものすごくおいしそうですが、すべての仕事に当てはまる言葉だと思います。NEWSも、目の前にいる一人ひとりの生徒さんのために授業をする、そうでなくてはいけません。
一人の偉大な名優のインタビューは、映画や演技という枠を超えて、人生といっていいものを問うものであると思いました。映画とはずいぶんちがう(親しい人にはけっこうおしゃべり?)人間的な魅力があふれていました。逆に、そういう人だからこそ、人々の胸を打つ演技ができたのかもしれません。最後までおもしろく読みました。