今年はアポロ11号が月に着陸してはじめて人間が立った年からちょうど50年になる年なのだそうです。いろいろな関連の企画などあるそうで、テレビ番組も放送されており、そのうちのいくつかを見ました。
月に立ったのは二人です。そして、その二人に様々な指示を出しながら、ずっと宇宙船にいたもうひとりがいました。その三人目の人は、重要な役目をひたすらこなしながら、世界中が熱狂している間、ずっとひとりでいました。月面に降り立つこともできませんでした。その人は(マイケル・コリンズという名前です)、自身の書いた本で、そのとき、自分はまったくの一人だった、と書いているそうです。
月面に立つことはできませんでした。しかし、彼がいなければ、アポロ11号は月にたどり着くことも、また帰ってくることもできなかったのです。限りなく月に近づきながら、その場にいつづける人間が、絶対に必要だったのです。彼は、完璧に役割を果たしました。
今年の高校野球の予選で、決勝戦に投げなかったエースがいました。プロ野球でも注目の、ドラフト1位まちがいなしのすごいピッチャーです。しかし、決勝戦は、投げることも、打つこともせず、ベンチで応援するだけで、試合は負けで終わりました。それまでの試合でかなり投げていたことで、将来のあるその高校生の体を心配し、監督が試合に出さないことを決断したのです。
監督の判断には賛否が分かれました。むずかしい問題だとぼくも思います。監督と選手たちのことを知らないので、正直なんとも言えないというところです。甲子園で見たいピッチャーであることはまちがいないですが、無理をして故障をしてしまっては意味がありません。エースだけではなく、他の選手、控えの選手などの気持ちもあるでしょう。負けてしまった以上、どの選手たちにも悔いはあるでしょうが、投げて負ければすっきりするというものでもないかなと思います。やはり、彼らだけの問題で、まわりは、彼らのいない甲子園をただ楽しめばいいのかな、と思います。きっと、また新しいヒーローがでてくるはずですから……。
月に立てなかった男、決勝戦で投げられなかったエース、まったくちがう世界での話ですが、ただ見ていただけの時間を、どのように過ごしたのだろうかと思ってしまいます。孤独を感じたこともあるでしょう。しかし、月に立てなかったマイケル・コリンズは後にこう語っていたそうです。
「自分が3人の中で一番いい役割だったかと聞かれれば、『ノー』です。ですが、自分に与えられた役割に満足したかと言えば、『イエス』です。そして、フラストレーションや恨みといった感情は全くありません。すべてのことに非常に満足しています」
自分の役割を見事に果たした人間だからいえる言葉だと思いました。いつの日か、決勝戦に投げられなかったエースや、投げられなかったエースのために勝つことができなかったチームメイトたちが、この試合を振り返って、似たような気持ちになってほしいと思いました。なんといってもまだまだ高校生なのですから。彼らの人生はこれからですよね。エースが阪神に入って大活躍してくれてもうれしいのですが……。