『シュロック・ホームズの回想』という本を読んでおります。書き間違いではありません。かの有名なシャーロック・ホームズのパロディーの短編集です。助手のワトソンならぬワトニイといっしょにさまざまな事件に挑んでいきますが……。毎回、見当違いの迷推理で、それが奇跡的にうまくいくこともありますが、とんでもない大騒動を引き起こしてしまうことがほとんどです。ただし、シュロック・ホームズとワトニイは、自分たちのことをまったく疑っておりませんので、本当は自分たちが起こしてしまった爆破事件などを翌日の新聞で読み、犯人(?)に怒っていたりします。英語による言葉遊びや、原典のホームズ物へのしゃれなどが多いらしく、そこらへんがわかると、きっともっとおもしろいのだろうなと思うのですが、それを抜かしても大爆笑の本でした。
シャーロック・ホームズの贋作というのは、何百冊もあるらしく、いまもまだ増えているようです。大真面目に、当時のホームズそっくりに書かれたものもあれば、この本のようにホームズを迷探偵にしてしまうものも、たくさんあるようです。ホームズの本は、ぼくも子どものころ大好きで、いっぱい読みました。ただ大人になってからはなかなか読む機会もなく、こういう迷探偵のホームズのほうが、つい読んでみたくなります。
推理はめちゃくちゃですが、推理の方法や、会話、ストーリーの運び方など、本物をかなり意識しているようで、探偵と助手、依頼者のやり取りなど、本物そっくりです(翻訳の方も意識しているのでしょう)。ぼくが今読んでいる『回想』は、原典と同じように、前作で崖から落ちて死んでしまったと思われたホームズが、復活するというところから始まります。あくまでも、原典にこだわって書かれているのですね。だからこそ、めちゃくちゃな部分がよりおもしろくなるわけです。
原典のホームズのファンの人は、こういう本をどう思うのでしょうか。作者の原典へのリスペクトを感じて、いっしょに笑うのでしょうか? それとも、ホームズをバカにするなと怒るのでしょうか?
名前はホームズでなくても、あきらかにホームズを意識している名探偵はたくさんいます。それらは盗作だとはいわれません。ホームズがあまりに有名すぎることもありますが、基本的に、原典のホームズへのリスペクト、愛が感じられるからでしょう。迷探偵のシュロック・ホームズにも、それがあるように思いました。読んでいるうちに、原典のシャーロック・ホームズもまた読み返したくなってきます。
作品へのリスペクト、愛というのは、いまの子どもたちにとっては特に身近な問題ではないかと思います。たとえば、自分の好きな作品がインターネットなどで、へんなふうに扱われたりするときがあります。つい、ふきだしてしまうものもありますが、嫌な思いをするときもあります。自分たちだけで見るものならばいいですが、いまは、どこでも、だれでも見られるところに、ものすごくたくさん溢れています。自分が嫌な思いをしたり、逆にだれかを傷付けてしまうことが、ごくふつうに起こります。
そんなときに、やはり、作品や、作った人への想像力を持ってほしいと思います。なんでもない一言が、大きな問題になったりしてしまうこともあります。こんなことをいったら、それを読んだ人がどう思うだろう、という想像力が、自分を守ります。また、作品や作者へのリスペクトや愛は、新しい想像力につながるはずです。
夏休みに、本を読んだり、絵を見たり、映画や、音楽を楽しむ時間がたくさんあると思います(NEWSでもたくさん過ごしてください!)。たくさんのいい出会いをして、想像力をめいいっぱい鍛えてほしいと思います。きっと、大人になったときに、とても大きな力になると思います。