あっというまに11月になりまして、今年もあとわずかですね。本当に早いです。生徒さんにもよりますが、NEWSの個別進学教室の受験生さんの中にも、希望の学校の過去問に取り組む子が出てまいりました。
ある(御三家と呼ばれる)中学校の数年前の国語の問題を解いている子がいました。現代文の読解である少年の物語が取り上げられています。解いている子が、急に顔を上げて、聞いてきました。
作者の名前は知っていましたが、いつごろ書かれたものかまではわかりませんでした。作者を考えると、古いといっても、昭和の終わりか、平成の初めに書かれたものではないかと思えます。ただ、描かれている時代はたしかに昭和の高度成長期あたりかなと思いました。ぼくは、どうしてそう思ったの? と生徒に聞きました。すると、
がーん、という文字が頭に浮かびました。たしかに、物語の主人公は、学校の帰りにみんなで野球をしています。いまでは、こんなことやらないのですね。やるとしても、サッカーなのかもしれません。そして、サッカーも、みんなが勝手に集まってやるのではなく、ちゃんとしたチームに入っている子がほとんどのようです。ぼくが小学生のときは必ず野球でしたが……。
しかし、ショックを受けているばかりではいられません。ほんの少し(?)前の時代ですら、もはやイメージしにくいいまの小学生に、どうやって、物語を読んで、理解してもらえばいいのでしょうか?
そういえば、のび太やカツオはよく野球をしていました。最近見ていませんが、彼らはまだ野球をしているのでしょうか?
国語の読解問題は、そこに書かれたものからイメージして、ときに書かれていない事も想像して書く力が求められます。そのとき、まったく見たことも聞いたこともない世界が出てくれば、やはり苦労することは間違いありません。NEWSで教えているときであれば、その場で説明できますが、テストでは自分ですべてを考えなければなりません。
本好きの子どもたちは、まるっきり架空のファンタジーの世界や、戦国時代のようにいまとまったく違う(本当には見たことのない)世界でも、ありありとイメージを浮かべて、物語を楽しんでいます。けれども、そういう子たちですら、明治、大正、昭和の世界となると、うまくイメージがつかめず、なんのことかよくわからないというときがあります。よくあります、といってもいいかもしれません。よく似ている分だけ、ちがいがわかりにくいのかもしれません。
さあ、大人の出番です。ときどき、いっしょに教科書や、問題文を読んでみてください。そして、ご自分のお話をしてあげてください。ぼくも授業中に、よく脱線して話してしまいますが、どの子も喜んでくれます(授業もちゃんとしています!)。また、そういうときの話のほうが、よく覚えていてくれたりします。放課後の野球は楽しかったです。よくボールをお墓に打ち込んで、怒られたりしました。ジャイアンみたいな子にむりやり、いやいや狩り出されたのではなく、楽しいからみんな集まったのです! ただ、ボールを投げるだけでよかったなんて、いまの子には、ぜんぜんピンとこないと思いますが……。
そういうある程度共通した世界観から物語を読むと、イメージがわきやすくなることが多いです。大人にはあたりまえのことが、いまはまったくちがうときもあります。ぼくらも、いまの空気や、世界観を、常に拾い上げて、認識してから指導しなければなりません。一番いいのは、みんなといっしょに野球をすることかも……。いつか、やってみたい気もしますね。
最後に、少し(!)前の時代の少年の詩をどうぞ。いまの少年たちに、この詩の気持ちは伝わるでしょうか?
三好達治
夕ぐれ
とある精舎の門から
美しい少年が帰つてくる
暮れやすい一日に
てまりをなげ
空高くてまりをなげ
なほも遊びながら帰つてくる
閑静な街の
人も樹も色をしづめて
空は夢のやうに流れてゐる
NEWS板橋校室長
三木 裕