前回のコラムで、リオ・オリンピックで見事銅メダルを獲得しました女子卓球チームの村上監督の記事から、負けに慣れる、ということを書きました。時には、積極的な意味で、負けに慣れる必要があるのではないか、と思ったからです。
もちろん、大人でも、子どもでも、負けてうれしい人はいません。できることなら勝ち続けたいものです。しかし、負けの経験のないままで人生を終える人はいないでしょう。なので、いつか負けたときのために、あるいは、負けてもすぐに次の勝利を目指せるようになるために、子どもたちに、上手に、負けに慣れさせること、これが大人の役割なのかもしれません、とコラムの最後で書きました。こう考えたときに、ぼくは村上監督の記事に出てきた別の言葉を思い浮かべました。『勝ち役』『負け役』という言葉です。
卓球の団体戦は、1対1で戦うシングルスの試合が4試合、2対2で戦うダブルスの試合が1試合あり、先に3勝したチームが勝ちになります。選手は3人ずつで、どの選手を、どの順番、どの組み合わせで試合に出すかが、大きなポイントになります。相手との実力差も当然考えて、順番を決めますが、その中に、勝ちを狙う『勝ち役』と、負けも想定している(負けてもいい)『負け役』を監督は設定しているのだそうです。もちろん、選手に、君が負け役だとはいわないですよ!と監督は笑いながらいってしましたが、選手は、監督の意図を、順番を見て正確に理解し、自分の役割を果たしてくれるのだそうです。
この『負け役』に大きなヒントがあるように思うのです。負けという言葉は嫌かもしれませんが、自分を犠牲にしてチームを助ける仕事をする役、ということでもあります。勝ち役のために相手の情報をつかんだり、相手をより多く疲労させたり、負け役だからこそできる仕事もたくさんあります。そして、負け役のおかげで、勝ち役がしっかり勝つことによって、負け役も含め、チーム全員でよろこぶことができます。試合に出ずに、サポートに回ることも一種の負け役かもしれません。先日、卓球の大きな大会で優勝した平野選手は、リオ・オリンピックのときはサポートメンバーとしてチームに帯同し、同級生の伊藤選手の話し相手や、練習相手をしたりして、チームを支えたということです。彼女も大貢献者ですよ、と村上監督は話しておりました。同級生がオリンピックで活躍するのを影で支えるのはつらいときもあったかもしれませんが、きっとそのときの経験が、大きな結果につながったのではないかと思います。4年後、きっともっと大きな結果につながると思います。
負けに慣れる、負け役、どちらも、まわりの理解やサポートがないとむずかしいと思います。上手に子どもたちがそのような経験ができるように、考えられる人間になりたいと思います。卓球の村上監督は、平野選手の話を、最後にもうひとつ話させてください、といって、あえてインタビューにつけ加えて語っておりました。すばらしいことだと思いました。東京オリンピックは監督をされるのかわかりませんが、卓球チームはきっとまたまた大活躍してくれるでしょう。楽しみです!
NEWS板橋校室長
三木 裕