前回のコラムで、将棋の藤井四段の話を書きました。そのあと、公式戦があり、見事に新記録の29連勝を達成しました。すごいですね! このあとどこまで行くのでしょうか? もっともっと伸ばしてほしいです。
新記録達成の翌日は、新聞の一面がすべて藤井四段の記事だったようです(阪神びいきで有名な某スポーツ紙だけが、関西では阪神の記事を一面にしたらしいですが)。中学生が新聞の1面を飾るというのは、ほとんどないことですよね。歴史的な一日だったのかもしれません。他にもテレビやインターネットなどで、いろいろと今回のことが取り上げられており、ぼくもたくさん追いかけてみました。それらの中で、印象に残ったことなどを書いてみたいと思います。
まず、将棋というのは、おそろしく時間がかかるものなのですね! 新記録となった対局は、朝10時から始まり、その日の夜9時30分ごろに終わりました。途中休憩などあったとはいえ、そんなに集中できるというのがすごいですね。ずっと一つのことを考え続けられるのがプロ棋士なのだといえばそうですが、やっているのが中学生だ、と考えると、驚いてしまいます。逆に1日に3試合という日も過去にありました。プロ棋士というのは、いろんな力が必要なのだろうなと思いました。
負けた棋士のコメントも心に残ります。以前のコラムにも書いたのですが、将棋というのは、自分で負けを認めることによって対局が終わります。注目され、当日の報道陣も多く、なかなか平常心で対局はむずかしかったと思います。ましてや、年下の、プロになったばかりの中学生に負けを認めるというのは、かなりつらかったと思います。しかし、負けは負け、負けたあとのコメントも、言い訳じみた言葉はなく、相手が強かったです、といさぎよいものでした。きっと、この敗戦が、さらに彼を強くするだろうと思いました。
そして、今回残念ながら自分の記録を抜かされてしまったベテラン棋士の言葉も味わい深いものでした。自分の連勝記録はほぼ運だけだったが、藤井四段のような天才が実力で抜いてくれたのは将棋界のためにはよかった、というようなことをいっていたのです。運だけで28連勝も絶対できないと思います。藤井四段もそうですが、謙虚なコメントをする人が将棋界には多いようです。
その抜かれた方のお話でちょっと思い出したことが2つあります。一つは、ある野球のバッティングコーチのことです。そのコーチは、あのイチローを育てたコーチであるのですが、イチローによって自分の安打数記録が抜かれることになってしまいました。そのときコーチは、「ひそかに誇りに持っていた記録だけれどイチローならしかたがないね」といったのです。その後のイチローの活躍はいうまでもありません。偉大な記録に関わったすばらしい人たちだけに通じる世界があるように思います。今回の将棋の連勝記録にもそんなすがすがしさが感じられました。
もう一つ思い出したのは28という数字です。その棋士は、28という完全数がいちばん好きな数字で、塗り替えられるのがさみしい、といっていました。28の完全数というと、小説ですが、『博士の愛した数式』でも、印象的な数字として扱われています。江夏投手の阪神時代の背番号でもあり、小説の中でも出てきます。とても、すてきな小説でした。藤井四段の記録とは関係ないですが、ちょっと思い出しました。
勝ち続けたから、なのですが、将棋の対局というのは、わりと連続してあるのですね。もうすぐ30連勝のかかった対局があるようです。また勝者と敗者が生まれるわけですが、そのときどんな言葉が生まれるのか、それも注目したいと思います。