- 前回のコラムの欄で、神奈川県の公立高校の入試問題に北村薫氏の作品が使われていて驚いたということを書きました。あの推理小説作家の北村薫氏が入試に出たのか、という驚きです。SF作家は時々見かけますが、推理小説の作家というのは、あまりなかったのではないかと思います(今回の作品はミステリーではなかったですが)。
そして、もう一つ驚いたことですが、本当に偶然、この原稿を書く数日前に北村薫氏の本を読み終わったところだったのです。小説ではなく、『謎物語 あるいは物語の謎』というエッセイだったのですが、とてもおもしろい本でした。北村氏自身が好きだという推理小説の、特にトリックについての話が書かれています。この本を読みながら、電車の中で何度か涙ぐんでしまいした。
「えー、トリックの話で涙?」
なんだかへんな人だと思われそうですが、ぜひとも読んでみてください。心打つエピソードがあります。それは文章の語り方について書かれたところですが、静かに胸に迫ってくる文章があるのです。そして、この本そのものが愛に満ちたものであることが、ぼくの胸を打ちました。
ぼくはこのエッセイを読んで思いました。自分が心から愛しているものを語るというのは、ただそれだけでこれほどまでに感動をよぶものなのだなあ、と。もちろん、稀代の読書家であり、名文家でもある北村薫氏が語っているからこそではあると思います。けれども、どちらかといえば、あまり日のあたらない場にある本格推理小説を語るときの、文章の崇高さとでもいったようなこの輝きはどうでしょう。それを読むだけで(ぼく自身推理小説が好きだというのもあるのですが)いっしょにぼくの胸も熱くなります。
みんなに作文を教える仕事をしているなかで、だれの心にも必ずある輝きを、ぼくはしっかりと見つけられているでしょうか。それらを引き出すために、ぼくらはいるのです。北村薫氏の本を読んで、あらためて作文の先生としての原点を思い出したような気がしました。これからも、多くの本に出会いたくさんの作文に出会いたいと思いました。
NEWS青葉台校室長
三木 裕