テレビで将棋の藤井聡太四冠達成のドキュメンタリー番組をやっていたので、見てみました。八つある将棋のタイトルの中でも、もっとも権威があるとされている竜王位を取ったときの一局を中心とした番組でした。
師匠や、伝説の棋士、若手棋士などの話もありましたが、話の中心はもちろん藤井四冠です。ただし、番組としては、もしかすると藤井四冠以上に取り上げられていたのが、対戦相手の豊島九段でした。藤井四段が十九歳という若さですから、他の棋士はすごく年上に見えてしまいますが、豊島九段もまだ三十一歳、これからまだまだ強くなる棋士の一人です。
結果として、豊島九段は、藤井四冠に負けて、タイトルを取られて無冠になってしまいました。ものすごく悔しかったと思うのですが、番組では、わりと淡々とそのときのことを語っていました。
「いい手を指したかった」
最後の一局の最終盤で、豊島九段が悩んだ手がありました。99分悩んだ末に指した手が、敗着になりました。その場面、藤井四冠は持ち時間が少なく、豊島九段があえて短時間で指して、相手のミスを誘うというのも、立派な戦術の一つでした。もしかしたら、そうしていたら豊島九段が勝っていたかもしれません。しかし、豊島九段はそうせず、じっと考え抜きました。それが相手にとって有利になるということよりも、考え抜いた上での、いい手を指したかったのだそうです。勝つことももちろん大事ですが、いい将棋を指すことも、同じくらい大事なことと思っているからだ、とぼくは思いました。
将棋には常に相手がいて、その相手との会話が、駒のみでおこなわれている、その将棋の深さに、二人は魅了されているようでした。勝ち負け以上に、いい将棋がさせたことを満足しているように、藤井四冠からも感じました。そして、お互いが戦ったことで、ふたりとも強くなったのだと思いました。
息の詰まる番組でした。ふたりは、ライバルであり、同じ道を歩む同士でもあるようです。なにごとも道を極める、極めようとする人たちというのは、本当にすごいなと思いました。