ある財団法人が募集した算数・数学に関する自由研究の中で賞に選ばれた、太宰治の『走れメロス』に関しての中学生の研究がすばらしかったのでご紹介したいと思います。NEWS板橋校の中学生の生徒も知っておりましたので、インターネットなどではわりともう知られているのかもしれません。
どういう内容かといいますと、太宰治の小説を読み込み、おおよその走った距離と時間を割り出し、だいたいどのくらいのスピードであったのかというものを検証したものです。距離に関しては、作品の中に十里と書かれており、ほぼ40kmです。時間は作品の中から推察します。作品の場所が日本の仙台とほぼ同緯度らしくその夏のころの日の出時間などと考え……、それら一つ一つの検証がおもしろいのですが、結果として、なんとメロスのスピードは、あまり速くなく、せいぜい早足程度の速さだったという結論になっているのです! この研究をした中学生は、走れよメロスと思いました、と書いていて、それがまたおかしかったです。いろいろな意味で楽しく、おもしろい研究でした。見事に賞に選ばれたのもうなずけます。
これを読んで、ぼくも大いに刺激を受け、いろいろと考えてみました。そして、もし、ぼくがのこ研究を生徒に書いてもらったら、この研究を使って、まさにそこから授業をはじめたいと思いました。たとえば、こんな授業です。
まずは、なぜ、この程度のスピードなのに、メロスはこんなにもぼろぼろだったのでしょうか。最後には、のどがつぶれ、真っ裸になっています。本当は全力で走り抜けたのではないでしょうか。なのに、こんなに時間がかかったのはなぜでしょう? これをみんなに考えてもらいます。文学的には太宰治一流の皮肉で、本当は幻の友情物語をあえて感動的に書いて読者をだましたのだ、という答えも考えたのですが、まあ、それでは『走れメロス』の感動が台無しですね。教科書にも載っている物語ですから。
・本当は百里の間違いだった。
・途中、山賊に襲われて(こういう場面が本当にあります)ケガをしていた。
・妹の結婚式で飲みすぎて走れなかった。
・十里といっても、けもの道や、石ころだらけの道で、全力疾走でかけぬけても、これくらいの時間がかかるのは当たり前だった。
・ものすごい荷物をしょっていた(研究の中ではこれにも触れています)。
・ものすごい太っていた。
まだまだ物足りないですね。みんなにたくさん考えてもらいたいです。答えがたくさん出ましたら、さらに議論して、作者はなぜそのことを作品の中に書かなかったのだろう、という点を考えてほしいと思います。こういう描写が無かったので『走れよメロス』になってしまったのですから……。
メロスが聴衆の受けを狙ってわざとぎりぎりまでゴールしなかった……というのも、現代的な視点かもしれません。とにかく、こうやって、いろいろと考えが浮かぶのがおもしろく、楽しかったです。すばらしい研究でした。子どもの発想というのは、このコラムでも何回もくりかえしていますが、本当にすばらしいですね。ぼくも、負けないようにもっともっとおもしろい授業を考えなければなりません。がんばります!!
NEWS板橋校、NEWS青葉台校、NEWSセンター北校室長
三木 裕