ポストウィックは博士を見つめた。「では、あなたも無実だと思っているのか」彼は重い口調で言った。
「そうとも」フェル博士は言った。「まったく、そうだとも! わしがここにいるのは、脚の悪い者、目の悪い者、虐げられておる弱い者のためだ。」
突然ですが、いま書いたのは、ジョン・ディクスン・カーという探偵小説作家の『緑のカプセルの謎』という小説の一部です。今日読み終わったばかりの本ですが、途中に出てくるこのせりふにしびれましたので、コラムに書くことにしました。ポストウィックというのは警視で、フェル博士というのは、有名な名探偵です。1939年の本ですので、かなり昔のものですが、古きよきミステリを愛するものにとっては、とてつもなくおもしろい本でありました。
ある村で、おそろしい毒殺事件が起こりました。お菓子屋さんのチョコレートの中に毒が入れられて、何人も死んでしまったのです。その場所にいたため、証拠はなかったのですが、一人の美女が村人たちにも警察からも疑われています。その後、その事件の解決をするといって、その美女の伯父がある芝居をおこないます(ここらへんが、古きよきミステリらしいおもしろさです)。ところが、その伯父も美女たちの前で毒で殺されてしまい、さらに決定的な証拠も見つかり、ますますその美女が犯人だとだれもが思います。そのときに名探偵フェル博士がいったのが、最初の言葉だったのです。
名探偵はなぜいるのか? コナンくんなどを見ていると、名探偵がいるから事件がおこるんじゃないの?と思うくらい、次々と事件が起こっていきますが、ちがうのです。名探偵は、虐げられた弱い者を助けるためにいるのです!
なんとかっこいいのでしょうか! そしてもちろんこの本の名探偵フェル博士は、美女の無実を証明し、悪賢い犯人のトリックをあばき見事に捕まえたのでした。この物語には、おそろしいトリックの解決とともに、ある男女のロマンスも書かれており、その行方も楽しめました。
毒殺魔の出てくる推理小説をなかなか子どもたちにおすすめするわけにはいきませんが、ユーモアあり、ロマンスあり、あっと驚くトリックありのこの本には、本を読む楽しさがつまっていました。
今年もNEWSサマースクールでは読書感想文コースをおこないます。NEWSのおすすめの課題図書も現在選考中です。感想文を書くためのテーマは、なんてことも大事ですが本としての楽しさ、おもしろさも味わえるような本も選びたいと思っています(毒殺魔は出ませんが)。近々発表しますので、そちらもぜひご覧ください!