前回のコラムで、1000年と1億年という、太陽系にまつわる年月を書きました。今回は27年です。星の歴史に比べると、まあ一瞬ですが、人間の生きてきた時間で考えると、とても重い年月となります。
先日、将棋の羽生竜王がタイトル戦で破れ、一時期はタイトル七冠を独占していましたが、とうとう無冠になってしまいました。それが、なんと27年ぶりの無冠なのだそうです。もしも勝っていればタイトル通算100期というすごい記録でもあったのですが、残念でした。次のタイトルを取るまでは羽生九段という肩書で呼ばれるそうです。
しかし、27年ですよ。ものすごい記録です。タイトルを一つも取れないで引退する棋士がほとんどの中で、27年間つねになにかのタイトルを保持していたというのですから、ものすごいです。藤井七段はもちろん生まれておらず、いまのタイトルホルダーの棋士がまだ小さいときから(生まれていない棋士も)、ずっと勝ち続けていたわけです。どんな世界でも、ずっとトップクラスを維持するというのはとてつもなく難しいと思いますが、27年という年月の重さには、もうすごいとしかいえません。
NEWSがようやく2020年3月で、20周年になります。それよりも7年も前のできごとなのです。比較の対象がちょっとへんな気もしますが、ずっとつづけるというのは、本当にたいへんなことなので……。27年前は1991年で、いわゆるバブルの終わり頃、千代の富士引退があったりとか、映画『ターミネーター2』なんかが公開されたりしたそうです。ずいぶん前ですね。
いま まだ高校生の藤井七段がタイトル戦に挑戦するのも、それほど先のことではないように思います。そして、もちろん、いつかは必ずタイトルをつかむでしょう。それでも、27年間タイトルを保持しつづけられるだろうか、とか、7つのタイトルを(いまは8つになりましたが)一度に独占して保持できるだろうか、とか、すべてのタイトルで、長期間獲得した棋士だけが得られる永世の称号を7つすべて達成できるか、とか、そういったことを考えると、いくら藤井七段がすごくても、ちょっとむずかしいのでは、という気になります。やっちゃう可能性もあると思いますが……(それがすごいですよね)。しかし、実際にやってしまった羽生九段のすごさをあらためて感じます。
いま九段だからといって羽生さんが引退するわけではぜんぜんなく、名人戦のリーグもトップに近い位置にいます。すぐにタイトル戦に登場し、これまた前人未到の通算100期のタイトルを獲得すると思います。101期、102期と、どんどん増やしていくはずです。そのどこかで藤井七段との勝負もあるにちがいありません。27年ぶりに無冠にもどった羽生九段の底力をこれから見たいと思います。とても楽しみです。