スプリングスクールが終了いたしまして通常授業が始まりました。その間すこしお休みをいただきました。そのときに読んだ本で、ちょっとおもしろいことがありましたのでご紹介したいと思います。
まず『ナマズ博士放浪記』という本です。ナマズ博士というあだ名を付けられるくらいナマズに魅了されてしまった松坂實という人の本です。世界中のあらゆるところでナマズをつかまえた話と、自分の半生が書かれています。なにかに熱中している人の本というのはたいていおもしろいですが、このナマズ博士のナマズへの思い入れもかなりめちゃくちゃです。ブラジルのアマゾン川だけでも20回以上行ったのだとか(この本のときなので、たぶんもっともっと増えていると思われます)。奥さんとのエピソードもかなりめちゃくちゃでした。
そして、並行してもう1冊読みました。椎名誠『イスタンブールでなまず釣り。』です。もちろん偶然手に取ったわけではありません。『ナマズ博士放浪記』に椎名誠とナマズ釣りをする話が出てきまして、これは読んだことがあるようなと思い、図書館で文庫本を借りてきたのです。ずいぶん前に読んだ本だったので、すっかり忘れていましたが、やはりそうでした。椎名誠の本にもしっかりナマズ博士が出てきていて、最後の解説まで書いていたのでした。
ぼくがおもしろいと思ったのは、同じ人間たちがイスタンブールでヨーロッパオオナマズを釣ろうとするという同じエピソードなのに、読んだ印象がかなりちがうということでした。
まず長さがずいぶん違います。ナマズ博士の本でのこのエピソードは、世界中のナマズ釣りの一つでして、ページにすると8ページほどでした。椎名誠の本では同じ旅を95ページ使って書いています。当然、長いほうが細かくいろいろ書かれているわけですが、どちらにも出てくる話があります。武装したトルコ軍の兵士に夜中囲まれたところとか、湖に水蛇がうようよいたことだとかは、どちらも書いてありました。そして、残念ながら、ヨーロッパオオナマズを釣ることはできなかったことも。
逆に8ページしかないナマズ博士の本にしか書いてないエピソードもありました。自分では釣れなかったヨーロッパオオナマズをつかまえた漁師に、なんとかお願いしてゆずってもらったこと、しかし、日本に持ち帰る前に死んでしまったことは、こちらにしか書いてありませんでした。
どちらがいいとか、どちらがおもしろいということは、まったくなく、どちらも楽しく読みました。同じ体験をしても、人間が違えばそれぞれ印象が変わります。また、おそらく必要に応じて書く長さも変えられるのでしょう。文章というのは、それほど自由なものなのだと改めて実感いたしました。作文倶楽部の授業でも、なにかの機会にみんなに話したりできればと思います。なかなか旅にはいけませんが、文章によるイスタンブールナマズ釣り旅行を春休みに行くことができてよかったです!